映画版『ミスミソウ』は『ミスミソウ 完全版』の完全版だった

レビュー

このレビューは、映画『ミスミソウ』を見ていて、かつ漫画「ミスミソウ」を読んでいないと、よくわからんモノになっている上、ネタバレしています。ご注意ください。


 押切蓮介の漫画にはモブキャラが存在しない。背景に物語に関わらない人物が描かれていることはあるのだが、その背景の人物ですら”どんな性格であるか”が解ってしまう程の強烈な絵柄の個性を持たせているからだ。(当人は本当に適当に書いているだけかも知れないけど)押切作品には、この強烈な絵柄を利用して、最低限の説明だけで物語を進行させる力があるのだ。

 漫画「ミスミソウ」は名作だ。「ミスミソウ 完全版」も必要ないほどだ。なぜなら野崎と小黒の前日譚や、お爺ちゃんのエピローグが無くても、彼女・彼らの間にあったことは、前述の理由の通り、絵柄だけで感じることができるからだ。とはいっても、漫画としては完全版でも不完全な部分もある。勢いのある台詞だけで突っ走ったり、逆に不要な説明書が見られたりと、拙さも見られるからだ。
しかし、それまで妖怪や幽霊を題材にギャグや恐怖を描いてきた押切蓮介が「純粋に人間を描きたい」という衝動に任せて描ききった「ミスミソウ」は、その拙さを含めて名作なのだ。
邦画において、漫画の映画化というと、絵柄そのままになるよう、取りあえず顔マネをし、あとは予算や実写表現の限界に合わせて作られたゴミのような作品が多い。押切漫画はまず、顔マネ自体が不可能。この時点ですでに行き詰まる。そして「ミスミソウ」における残酷表現は、そのままやってしまってはR18を免れない。そんなわけで「ミスミソウ」映画化するのは無理だろう、と俺は思っていた。しかし、それは早合点だった。

 通常のやり方で実写化が不可能であれば、実写でしかできないことをやれば良いだけなのだが、それができる監督は少ない。今回、内藤監督はどうしたかというと、漫画で不足していた部分をあえて台詞や場面追加で補い、漫画で不要であった説明台詞を削り、絵柄で表現していた部分を、若い役者に説明台詞を言わせ、さらに大仰な芝居をさせることで表現したのだ。
若い役者の拙い芝居が経験不足故に、試行錯誤して自棄っぱちに演じているという様が見てとれるのは、映画としてはダメなのだろう。しかし、その自棄っぱちさが「ミスミソウ」を描いた時の押切蓮介の拙さと共鳴してしまったことで、映画『ミスミソウ』は、驚くほどの完成度となった。役者陣の芝居がヘタという訳では無い。これを内藤監督はたぶん狙ってやってるのだと思う。押切蓮介が漫画「ミスミソウ」で感じさせたような精一杯、懸命にやってる感じがヒシヒシと伝わってくるのだ。特に野崎と小黒のバス停での会話は素晴らしい。俺はこういう作品が好きでたまらんのだ。
(この点、押切蓮介も「ハイスコアガール」権利問題の件を見ると、自棄っぱちなってからが本番なんじゃないだろうか。)

 残酷描写については、一部、省略されている箇所もあるが基本的に原作と同じ。指の切断シーンに流血が伴わなかったりするのは、映倫の指摘かと思われるが、今の日本映画において、あれ以上の表現をR15で求めるのは酷である。
原作から大きく改変されている小黒が生き残ってしまう点については、押切蓮介自身が気に入っているとのこと。2017年暮れに開催された学生残酷映画祭の審査員として登壇した押切氏は、のっけから血便を噴射するオッサンやら経血を啜る変態やらが登場する作品を見せられて「僕は下品な物に耐性が無いんです。だから、こんなものを見せられて・・・動揺しています。」とドン引きしていた。押切作品はギャグ中心の白押切にしろ、陰惨さがウリの黒押切にしろ、決して下品にはならず、下品になる直前で止めている。「ミスミソウ」も陰惨ではあるが、下品ではない。むしろ美しいぐらいだ。その点を踏まえると、あの”美しい”とも言える小黒生存改編は、押切氏好みなのだろう。

 褒めてばかりだが、文句が2つある。一つは野崎の噛み切った唇に相場がキスをする場面。原作でもキスシーンあることはあるが、血は出ていない。俺は下品な人間なので、あの場面で血を流されると、あえて言わないけど「そういうことでしょ?」という風にしかみえない。映画的に面白いのかもしれんし、インパクトもあるけど「うーん」と。たぶん俺の読み間違いだと思うけど。もう一つは南先生の影の薄さだ。流美が掃除用具室で虐められている場面を南先生に目撃させるだけでも、後半のゲロキョンに巧く繋げることができたと思う。原作通り、きっちりと除雪機に巻き込まれてくれるのに、惜しいなあと。子供達が出ていると画面が生き生きしているのに、大人だけの場面になると、輝きがなくなってしまうのも残念。

 内藤監督は、若い役者の使い方が非常に巧い反面、成長しきった役者を使いこなせていないように見える。次作は素人の若い役者を使った作品のようだが、もう少し熟れていると嬉しいなあ。

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