ゾンビ映画だけどゾンビ映画じゃない。でも、やっぱりゾンビ映画ですが、何か?

作品データ

2013年 米 監督:マーク・フォスター 出演:ブラット・ピット、ミレイユ・イーノス、ダニエラ・ケルテス

レビュー

ブラッド・ピットが娘達のためにパンケーキを作っていたハズなのに、パンデミックが起こってしまい、気がつけばソラニュウム・ウィルス(※1)の治療法を探して世界中飛び回ることになるお話。

プランB制作(ブラット・ピットの制作会社)で、予算が潤沢であったためか、とにかくイベントが矢継ぎ早に発生、目まぐるしく舞台が移動し、風景も人もバタバタと入れ替わっていくのが特徴の映画だ。
しかし、完成度に問題があり公開を延期、脚本変更・追加撮影してエンディングを差し替えたという流れもあり、非常にとっちらかった内容になっている。娘が喘息持ちという設定が全く意味が無かったり(※2)、前半結構目立つポジションにいた男の子が突然劇中から消滅したり(ごめんなさい。消滅してませんでした。ものすごく影が薄くなっちゃているという感じで)、何しに出てきたのかサッパリ判らないデヴィッド・モース、とってつけたようなステルスゲーム風クライマックス。イベント個別で切り出せばとても楽しい映画なのだが、全体を通すとどうにも散漫な印象がありちょっと残念だった。
原作はパンデミック収束後の世界で、「ゾンビ発生から事の収束まで人々がいかに戦ったか?」を当事者に聞き書きしたという形式で展開していくため、そもそも”まともに”映画化するは無茶な話だったのだが。(当然、原作の雰囲気は殆ど消え失せている)

ところで、本作をゾンビ映画として宣伝していないことについて問題視している方が沢山いますが、僕はそれは構わないと思ってます。なぜか?本作は確かにゾンビ映画なのですが、ゾンビ映画らしいところが一切存在しないからです。

この映画にはゾンビ映画に期待されるカニバリズム描写が一切登場しません。劇中の扱いが「狂犬病」的なので、単に噛みついてくるだけです。それと同じく、ゴア描写も一切ありません。ゾンビに噛まれた腕を切り落としたり、ゾンビの頭をバールで叩き割ったりしますが、全て画面外で行われます。ただCGで描かれた大量のゾンビが破壊された巣からわき出るかのアリの様に、ワラワラと蠢く様を俯瞰で延々と映し出されるのみ。ドタパタしたパニック描写に重きを置きすぎたために、悲壮感を感じる暇が無く、ゾンビ映画に必須であるとも言える終末感も薄い。

カニバリズムを排除し、ゴアシーンを捨て、制作費回収のためにレーティング下げたゾンビ映画に残されたものはなんだったか?ビックリするほどゲーム的なアクションシーンのみだったのだ。(※3)(これが結構面白いので困る。)
だから「ゾンビ映画」だけど「ゾンビ映画」じゃ無いような気がするし、その逆もまた然り。というわけで、どんな宣伝しても構わんわーという感じ。

「ファミリー映画を観にきたハズなのにゾンビ映画を見せられて、映画館から客が離れる可能性が!」

んなわけない。大丈夫大丈夫、家族で観ても大丈夫。これすっごい人畜無害なファミリー映画。最後のステルスゲーム部分なんて、鑑賞後にメシ食いながら家族で楽しくお話できると思うよ。

あー、それから「最近、米国ではゾンビが映画でもゲームでも流行っている」と聞きましたが、ぶっちゃけ、最近どころか昔からずぅーっとゾンビは米国で流行続けています。3年に一本は楽しいゾンビ映画やゲームが出現してくれるのでホントありがたい状況で、最近では、本作のような音に敏感なアスリート系ゾンビ映画が登場する「The Demented」なんかが典型的なゾンビ好き向け映画になってます、

  

*1 劇中では一切言及されませんし、そんな設定すらありませんがWWZの原作ではそんなウィルス名です。
*2 ブラッド・ピッドに家族がいるという設定すら不要になる勢いです。
*3 実は原作にもゴア描写がありません。オーラル・ヒストリーであるため映画とは真逆で、かなりアカデミックな内容になっています。

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