復讐に捧げた人生最後の旅の終着点は・・・?

作品データ

2015年 アメリカ
監督: Adam Egoyan
出演: Christopher Plummer, Dean Norris
->imdb

 ニューヨークの老人ホーム。ゼヴ・グッドマンは妻に先立たれたことすら忘れるほど認知症が進んでいた。彼は友人マックスから家族を殺したドイツ人将校オットー・ウォルシュへの復讐を依頼される。ゼヴとマックスはアウシュヴィッツ強制収容所で家族を皆殺しにされながらも戦禍を生き延びた仲間。老い先短い彼らは、虐殺者オットーへ復讐し、心置きなくこの世を去りたいというわけ。しかし、マックスは酸素吸入器が必要なほど衰弱しており、自分では動くことができない。だから友人のゼヴに頼み込むしかなかった。手がかりはルディ・クーランダーという名前。オットーは名を騙って平々凡々と暮らしているのだ。マックスは長年の調査の末にオットー候補を4人に絞り込んでいた。彼は復讐の算段を手紙に書きゼヴに託す。

認知症でもひたむきなゼヴ 復讐に人生を捧げてきたマックス

 夜中にホームを抜け出したゼヴは、認知症による記憶障害、見当識障害に苛まれながらも銃を片手に4人の男を1人ずつ訪ねて回る。ところが、1人目も2人目も、そして3人目もナチスとは関係がある人々であったがオットー・ウォルシュでは無かった。人違いが続いても愚直にマックスの指示に従うゼヴ。4人目のクーランダーこそ、我が敵オットー・ウォルシュと決意を固くするが、彼を待っていたのは衝撃の真実だった。

腕には囚人番号 銃を隠しながらカナダ国境越え

 御歳86歳を迎えたクリストファー・プラマー主演のサスペンス。ポスターやDVDジャケットにはグロッグをビシッと構えたプラマーが画かれているが、その実、本編では非常に頼りないおじいちゃん。寝起きには必ず無くなった奥さんの名を呼び、自分が何処にいるのかも忘れている。若者の言葉は早くて聞き取ることができず、銃を持つ手は震え、肝心な場面では失禁してしまう。けれども、彼は格好良い。ひたむきに家族の敵を取ろうとする悲壮な姿は胸を打つ。

失禁しながら銃を撃つ ピアノが巧すぎるプラマー

 プラマーの表情がとにかく良い。ラストの真実を知った時の顔はもちろん、記憶障害で復讐を忘れ、病院のベッドでTVを観て幸せそうに笑っている顔。若き日を思い出してピアノを弾いている顔。どれも印象的だ。プラマー本人も役に相当入れ込んでいたそうで、認知症の演技は専門家のアドバイスを元にし、スタントも自分で演じるといってきかなかったそうだ。ピアノ演奏場面では、ピアニストを目背していたプラマーだけに本人が演奏している。また、脇役陣ではディーン・ノリスが光っている。ナチに傾倒した暴力中年保安官という彼らしい役柄でファンはニンマリできるだろう。

嫌らしい役のディーン タジタジのプラマー

 素晴らしい演技が堪能できる反面。ストーリー展開に違和感を覚えるかもしれない。マックスはわざと間違えてゼヴに遠回りをさせているんじゃないのか?そんなに体良く同姓同名が居るものなのか?あまりに簡単な銃の扱い 等々、ご都合主義が目に付く。しかし、このファンタジーともいえる展開をサスペンスと融合させるやり方はいかにもアトム・エゴヤン。これまでの作品では独りよがりで、ぼやけた結末を提示することが多かったエゴヤンだが、本作は独特のファンタジックな世界がオチに直結して見事な効果を生んでいる。ラストの衝撃で呆然とした頭でエンドロールを見つめていると、全ては“”真実を思いだす”ためのお膳立てとして機能していたことに気がつく。

ルディの娘と孫
そしてゼヴの息子
真実を知ったゼヴの
決断は?

 復讐などしなくても、平穏な最期を迎えられたはずのゼヴとマックス。老人ホームから消えてしまった父を探す息子。過ちを犯したが今は平和に暮らしているルディとその家族。その誰もが幸せになれない結末が醸す虚しさ。何とも言えない厭な気分にさせてくれる作品。
 老いて昔のことを思い出せなくなることは悲しい。だけど辛い思い出は、忘れられないことが辛いのではなく、思い出してしまうから辛いのだ。

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