Sit back, relax and enjoy your ride.

作品情報

2013年 アメリカ
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー

レビュー

ホラー映画?

宇宙に取り残され、地上に帰る手段を失ってしまった宇宙飛行士が直面する恐怖と絶望を描いた作品である。
俺のブログの特性上、ホラーであるか否かがキモだ。その点、本作は「一挙一動が命に関わり、失敗した先に待っているのは、苦痛と死である」という部分において完全にホラーであり、主人公を襲う苦難はソリッドシチュエーションのそれである。

「ゼロ・グラビティ」の恐怖は、窒息や襲いかかる宇宙瓦礫だ。自然の驚異が相手であるから、ディザスタームービーとも言えるが、明確に「窒息したらどうなるのか?」「瓦礫をまともに躰に受けたらどうなるのか」が提示される。最近の作品では残酷描写に遠慮が無くなり、死のイメージが上っ面だけで表現されることがなくなってきているが、これはかなりのパンチ力でホラーなものだ。

ネタバレ:瓦礫を喰らうとこうなります
ネタバレ:窒息するとこうなります

俺は本作についてホラー映画なの?といわれたら「うん、ホラーとしても問題無いよ」と答えるだろう。

表現について

監督のアルフォンソ・キュアロンは「トゥモロー・ワールド」の長回しで語られる事が多い。本作はその延長上にあることは間違いなく、カット間で時間のジャンプは殆ど無い状態でリアルタイム進行で観客に絶望を体感させる。さらに主観視点が多いこともあり非常にゲーム的だ。「映画では見たことが無い」映像にあっけにとられるが、この無重力や縦横無尽に駆け巡るカメラワークは、2008年に発売されたゲーム「Dead Space」と非常に共通点がある。もちろんクオリティは比べものにならないが、どちらも死と隣り合わせの息が詰まる状態とそこからの解放が交互に淡々と繰り返される。ゼロ・グラビティはこのゲーム的な表現を気の遠くなるほどコストをかけた技術を使い、映画の尺でやりきったという点が素晴らしい。
http://youtu.be/mGbPlTnipCg?t=4m57s
↑こんな感じなんだけど、音楽まで似てるでしょ。
「Dead Space」については、あまりに残酷なゲームであるため日本語版は出ていないし、ドイツでは発売禁止の憂き目にあっているゲームであるが、未プレイなら、この際、プレイしてみることをオススメする。「ゼロ・グラビティ」で味わった興奮がゲームとして遊べるよ。
また、本作の無重力の表現については、宇宙飛行士のお墨付きだそうだが、なんと言っても「涙」の扱いが気に入っている。僕はあんな美しい涙の表現を見たことが無い。

ストーリーについて

人物描写は自己紹介のような台詞が目立つ上、あまりに地味なバックボーンであるため「薄っぺらい」と感じる向きも多いかもしれない。(ジョージ・クルーニーが相変わらずジョージ・クルーニーだ。)しかし、如何にもありそうなエピソードで奇妙なリアリティがある。主人公のライアン・ストーン博士が精神的な死を経て、突如猛烈なサバイバル本能を覚醒させるくだりもベタながらも、非常に巧みな描き方であることも手伝って印象深い。
絶望と恐怖に対する、宇宙と地球の美しさ。この対比も欠かせない要素だ。しかし、こればっかりはいくら言ったところで伝わる訳も無いので、是非自分の目で確かめて欲しい。音楽もこれに準じており、ベースが全く安定しない移動を繰り返し音量も2次曲線を描きながら上下するパートとピアノのアンビエントで草原なパートがが交互に流れる。作品の性格上、BGMは不要という意見も多いが、ブンブンうなりながら前後左右に移動する様はかなりプラスの効果を上げている。(あんまりにも気に入ったのでサントラを買ったほど)

決して革新的ではないが、これらを実写で表現した技術だけは凄まじい。この技術が今後どういった作品で生かされるのか楽しみだ。

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