『M.F.A.』と#metoo

2018年3月号の映画秘宝連載に書いた『M.F.A.』。#metooがネット上を席巻しているタイミングでは絶対ウケない内容だったので、紹介しようか、面倒臭いから止めようかと悩んだ作品だ。ただ、とても大事なことを書き漏らして・・・というかあえて書かなかったことがある。それは、今の#mettoと相容れない内容と考えたからだ。

『M.F.A.』のストーリーをおさらいすると

美術学修士 (Master of Fine Arts)を目指している女、ノエル(フランチェスカ・イーストウッド)。彼女は性格も暗く、課題作品もパッとしない。陰鬱としている彼女に「今夜、パーティがあるんだけど、こない?」と声をかけたのは、ルーク(ピーター・ヴァック)。
「あんたちょっと暗いから、少しくらい羽目を外してきなさいよ!」と親友のスカイ(リー・マクケンドリック)も喜んで後押し。しかし、張り切ってパーティに出向いても、根暗なので知らない人には声をかけられないノエル。ルークに誘われるまま個室に連れ込まれる。キスくらいなら良いかとイチャイチャしていたらルークが豹変。そのままレイプされてしまう。

呆然としたまま、部屋を出たノエルは、そのまま会場のプールに飛び込んでさめざめと泣く。翌朝、様子がおかしい事に気付いたスカイに問い詰められたノエルは全てを話すが、スカイは「酷い夜だったろうけど、それで人生が壊れるわけじゃ無い」と慰めるだけだった。

全てを無かったことにしようとしても、ルークの姿を見てしまうと夜の出来事がフラッシュバックして講義もままならない。困り果てた彼女はスクールカウンセラーに相談に行く。しかし、まっていたのはセカンドレイプ。「ちゃんと断ったのか?」「目撃者は?」「酔ってたんじゃ無い?」

話になんねぇ!悲しさと悔しさと怒りに駆られた彼女は、ルークのアトリエを訪ねる。

「アンタは私をレイプした!」
「はあ?お前、何、言ってんの?」

ノエルは、相手にしようとしないルークと取っ組み合うウチに階段から彼を突き落としてしまう。頭が割れ、絶命するルークを観たノエルの中で何かが目覚める。

レイプシーンはシンプルだが、とても残酷だ。

残酷な描写があるわけでも、過剰な性描写があるわけでもない。ノエル以外のキャラクターは本性が悪として描かれ、ただ淡々と「暗い女」が「悪い奴」に徹底的に翻弄されていくだけだ。
友人のスカイも例外では無い。過去レイプされた経験がある彼女は、その経験から「全て忘れて生きろ」とノエルにアドバイスする。しかし、その「なかったことにする」やり方は、ノエルの人生をあらぬ方向へと向かわせる。事実を拒絶するという不条理な現実に耐えることのできなかったノエルは復讐者にしてしまうのである。

友人のスカイもレイプ被害の過去があるが、無かったことにはできず、PTSDに悩まされる。

V-Dayの馬鹿な連中

個人はもちろんのこと、集団も悪だ。ノエルが救いを求めてV-Day(女性と女児に対する性暴力を止めるための活動家運動)の会合のクソっぷりはなかなかもの。
「我々の運動を世間に知ってもらうためにマニュキュアの色を変えましょう」などと抜かすグループのリーダーに対して、ノエルは「マニキュアの色でレイプが防げるの?被害者の話を聞いたりしないの?」と疑問を投げかけるも、彼女達はレイプ被害者の状況を評価して優劣を付けるのだ。「某カレッジに起きた暴行事件は、もともとヤリマンであるあの子が悪いのだから・・・」のように。
活動化運動が評価団体となってしまったり、無意味な集団圧力を書けてしまったり状態。これ、今のmetooと同じなんじゃないかな?と思うんですよ。
勇気のある告発を後押しする動きだったのに、結局、告発の内容を評価したり、某授賞式の服装を黒で統一したりなどという無意味な動きが事の中心になっていく。

C.イーストウッドの愛娘フランチェスカの芝居は素晴らしい。

『M.F.A.』は、杓子定規な性悪説を前面に推し出した、安っぽい筋立てだ。しかし、その反面、非常にリアルな印象を受ける。何故か?
この作品の監督、ナタリア・ライト自身、アートスクール時代にレイプの経験があるからだ。彼女自身はこの映画を自らのセラピーだと言っているが、その実、彼女にとってのmetooなのだ。
果たして、ナタリアは今のmetooの状況をどうみているだろう?

彼女の正義とはなんなのだろうか。

ちなみにV-Dayは実際にある団体なので、是非、ウェブサイトをチェックしてみて欲しい。何の活動をしているか全くわからないが、ヴァギナマークだけは脳裏に焼き付くはずだ。ほんと世の中は Master at Fucking Aroundだ。

こういう作品に見向きもせず、オスカーだなんだと騒いでいる連中は、ほんと幸せ者だ。

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