『マーラ』とヘンリー・フューゼリの『夢魔』

 2018年映画秘宝12月号の連載Horror Anthologyで書いた『マーラ』。記事執筆時点では、日本未公開であったが、現在は国内盤が発売され安易に観賞しやすくなったので、連載時に書けなかったネタを一つ。

 『マーラ』は、“金縛り”こと“睡眠麻痺”を題材に、金縛りの原因とされてきた悪魔、所謂“夢魔”が命を奪いにやってくるという話だ。詳しくは映画本編を観てもらうとして、連載時にも書いたとおり“睡眠麻痺”の原因は明確な理由があり、霊的な現象でもなんでもない。ただ脳が覚醒しているのに体が寝ている状態である。しかし、この状態、原因は知っていても何か恐怖を感じてしまうことは間違いない。だから映画以前の時代には、この恐怖を表現した絵画がいくつも存在する。なかでも有名なのは、ヘンリー・フューゼリの『夢魔』だ。中野京子氏が「怖い絵」で紹介し、上野の森美術館で2018年に行われた「怖い絵展」でも来日したことから、実物をご覧になった方も多いだろう。

 仰向けに寝ている女性の腹の上にインキュバスがうずくまり、左手のカーテンの奥から不気味に目を光らせた馬が顔を覗かせている。この作品の解釈には複数あろうが、中野氏の解説はとにかく「怖い」見方をさせようと「インキュバスが女性の上に乗っていることから、レイプしようとしている。馬は欲情の象徴。」という見方に終始している。インキュバス自体が「夢に出てきて女を犯す」(ちなみに男を犯すのはサキュバスだ)存在なので、無難な解釈ではある。

 しかし、俺の解釈はちょっと違う。そもそも女性の表情は「恍惚としている」とわれているが、これは、体のコントロールを失った“睡眠麻痺”の状態を描いているのでないか?あの“金縛り”の奇妙な息苦しさ、何かが聞こえる、何かが近くにいるような感覚……。果たして、この絵に描かれたバケモノはサキュバスなのか?もしかしたら女性の命を奪いに来た悪魔“マーラ”なのではないか?そんな見方も面白いのではないだろうか。

 また、ホラー好きの多くはこの絵について思い入れがあるようで、海外の有名ホラーサイト「iHorror」では、サキュバスが女性の上に乗っているというのは「女性が欲情を抱えている」という見方を紹介している。

この体勢は、絶対『夢魔』を意識していると思うんだけどなあ。

 ちなみに『マーラ』では、『夢魔』へのオマージュのような犠牲者の死体が登場する。さて、本作の制作者は『夢魔』についてどんな解釈を持っているのだろう?

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