なんで俺がこんな目にぃぃ・・・。

あらすじ

男が目覚めたのは土の中。慌てて飛び起きるとそこは奥深い森。携帯を取り出しエマージェンシーコールをかける

「助けてくれ!生き埋めにされたんだ!」
「落ち着いてください、まずお名前を」
「俺の名前は、俺の名前・・・名前・・覚えて・・無い・」

男は記憶をなくしていた。どうして生き埋めにされたかどころか、自分が何者であるかも思い出せない。「助けてくれ!誰か!」当てもなく森を駆け回る男。すると一軒の山小屋を発見する。助けを求めて中に入ると、”再生ボタンを押せ!”と書かれたビデオカメラが置いてあった。恐る恐るボタンを押すと妊婦の腹を切り裂く映像が再生され、唖然とする男。そしてその背後にはその殺りたてホヤホヤの女の死体があった。たまらず山小屋を飛び出し、当てもなく走り回る。どのくらい走っただろうか?鬱蒼とした森で途方に暮れていると、ポケットに自分の財布があることに気がつく。財布には身分証明者や家族の写真が入っており、自分の名前や結婚していること、2人の娘と息子がいることを思い出す。「・・子供?そうだ子供たちはどこだ?」男はようやく自分を取り戻しはじめた。しかし、彼を付け狙う何者かが森で動き始めていた・・。

感想

インドネシアで今一番期待され、嫁の堕胎をきっかけに狂気に駆られていく彫刻家を描いた「The Forbidden Door」や呪いの地名を記憶してしまったナルコレプシー男の悲劇「Kala」など、スタイリッシュな映像とドSなストーリーという作風で知られる監督ジョコ・アンワル。僕はTRASH-UPの記事でしか知らなかったんですが、彼は本当に逸材だ。というか、イギリスでもロッテルダムをはじめとするヨーロッパでもアメリカでもどこでもその作家性の強い作風は好評を得ている。
本作は彼のスタイリッシュな部分を取り除かれており、泥まみれで陰鬱な暗闇しかないやや例外的な作品とのこと。しかし、オールロケでさらに世界進出を視野に入れ全編英語台詞という気合いの入ったものだ。
もはや彼の作品の定番となっている妊婦虐待から始まり、観る者を徹底的に混乱させるストーリーテリング、90分弱の作品にもかかわらず、30分近く費やして描かれる驚天動地のタネ明かしやその過程で描写される突飛なバイオレンスアクション(インドネシアだけどシラットは使わないよ!)、どれを取っても素晴らしい映画。
加えて記憶をなくした男を演じたリオ・デワントがまた良い。作品の性格上、全編、彼がヒィヒィ言いながら森の中を延々とかけずり回るだけで台詞がほとんど無く、表情メインの芝居になるんだけど、この表情がすごい。もはや顔芸の域。特に後半「おいおい、これ同じ男なのかよ?」という表情の変化には舌を巻く。

さて、オチについて。僕は本作を「犯人のいないファニー・ゲーム」と紹介されました。確かに中盤からの男のやることなすこと全てが裏目って残酷な展開となる不条理さは、ファニー・ゲームの様な陰鬱とした世界を感じる。しかし、それを乗り越えた先に待ち構えていた真相はそんな生易しいもんじゃ無かった。こんなオチ観たこと無い。タイトルの「Modus Anomalie」は訳すと「Abnormal Mode」、「異常なやり方」という意味合いなりますが、まったく異常そのもの。犯人は確かに存在してる。しかしド変態としか言いようのないギャンブル要素を自分に嫁しているのだ。それがどんなギャンブルなのかは絶対に説明できない。言ってしまうと本作を観る価値が無くなってしまう。その内容は反応は様々だと思うが、僕は「やったな、このやろう・・面白いじゃねぇか!」と感じた。正直あまりにトンデモなので怒ったり呆れる人も多いと思う。
本作、怪しいジャケに怪しいCDというVCDで入手可能だがハッキリって画質は悪い(タイの高校生虐殺新歓旅行スラッシャー「ラップ・ノーン」も同様だったなあ・・。)。アメリカではSXSWで「”WTF” Horror Movie」とすこぶる評判であることから、ちゃんとしたメーカーからちゃんとしたフォーマットでのソフト化も近々行われる気配がある。少し時間が掛かるかもしれないが、そちらを待った方が吉かもしれない。なんにせよ早く多くの人にこのぶっ飛んだ映画を体験して欲しい。

とにかく今、インドネシアが熱い。

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