『Run』:雑設定の恐怖!

『search/サーチ』の監督の新作です

 『search/サーチ』(原題:Search)の監督、アニーシュ・チャガンティの新作。『search/サーチ』では、行方不明の娘を”探す”サスペンスを全編Macの画面上で進行させ話題となった。対して今作『Run』は、タイトル通り”逃げる”がテーマだ。もちろんーーというか当然、物語がMac上で進行したりせず、真っ当なサスペンスに仕上がっている。逆に不自然なくらいにテクノロジーは利用されない。それには理由があるが、さて、本作どんな物語なのか?

早産で障害を負って生まれた娘の巣立ちを邪魔する母

 「この子は大丈夫なの?」ダイアンは新生児保育器の前で中の我が子を見つめていた。早産だったのだ。17年後、ダイアンは子にクロエと名付け、郊外で暮らしていた。クロエは早産の影響か、さまざまな先天性障害を負っていた。足の麻痺、喘息、不整脈、糖尿病……。普通の学校に通うことが困難であると判断したダイアンは、クロエをホームスクーリングで育てていたのだ。だが、大学の合格通知を心待ちしているクロエの巣立ちの時は近い。大学に受かれば母の介護を離れ、家を出て独り立ちできるのだ。ところが毎日郵便を一番に確認しようとすると、それを阻止するダイアン。

 「最近、母さんの様子がおかしい……。」

 疑問に思ったクロエは、いつもなんの疑問もなく飲んでいた薬のケースを確認してみると”トライゴキシン”と書いてある。はて、なんの薬だろう?母に確認してみると「不整脈の薬だよ」と答えるが、どうにも怪しい。ネットで調べようにも、なぜか自宅のWi-Fiは利用不能なってしまう。苦し紛れに適当に電話番号に電話をかけ、誰とも知らぬ人にトライゴキシンについてネットで確認してもらうと、「なんの薬かはわからないがトライゴキシンは赤色のカプセルだよ!」と言われる。しかし、クロエがいつも飲んでいるドライゴキシンは緑色のカプセルだった。これは薬局に直接聞くしかあるまい!クロエは、母とともに外出し、隙をついて薬局に飛び込む。薬剤師は「これは犬用の筋弛緩剤だよ」と答える。

 愕然とするクロエ。母は一体、これまで自分に何を飲ませてきたのだろうか?自分の障害は、本当に先天性のものなのだろうか?

徹底的なITテクノロジー排除

 『search/サーチ』と違い、本作ではインターネットが活躍する場面は全くない。スマートフォンもほとんど登場しない。クロエはダイアンに意図的に孤立させられているため、徹底的に情報統制をしているからだ。インターネットなど使わせたら、あっという間にクロエが自分の置かれた状況が判明してしまう。その代わり、アナログ的手法が様々な場面で活躍する。

 例えば薬のケースを手に入れる場面。車椅子生活のクロエの手に届かないところに置いてあるのだが、それをお手製のマジックハンドでゲット。趣味は電子工作で使っている”はんだごて”を用いた”ある脱出芸”は、なるほどと思わせる。

 あらすじに記載した”見ず知らずの人間に電話をかける”という行為は、家電文化がほとんど消え失せた日本では、なかなか思いつかない方法だろう。

 こうして柔軟な頭と持ち前の勤勉さでクロエは、手法で様々な情報を手に入れ、母の”介護地獄”から脱出しようと試みるのだ。

雑な設定が怖い

 さてさて、お察しの通りダイアンはクロエに一服持って障害を追わせているわけだが、この手法が意外と雑。足の麻痺は先の薬に頼っているとしても、最終的に明かされる手法が、よくわからん黒い液体にシンナーを追加しそれを注入するというもの。「おい!そんなことしたら死んじまうだろ!」という荒技なのだ。想像するに十数年に及ぶ研究の末の毒物なのだろうが、何をどうしたら足の麻痺、喘息、不整脈、糖尿病などという症状を引き起こす薬物が作れるのが非常に疑問である。加えて、ダイアンの背中には逆五芒星のような傷があるのだが、その理由もはっきりしない。「すわ!黒魔術か!」と。

 この雑で地味なアナログ母娘戦争は、どちらかが廃人になるまで続く。一見終わったかのように見えても、「まだこの悪夢は終わっていない」ことを示すラストシーンは、なかなかの後味。

 本作は米国Huluにて配信中。日本のHuluは……相変わらずである。

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