「Depraved」レビュー:引き裂かれる心と体

Alex Breaux in Depraved (2019)

ラリー・フェッセンデン流フランケンシュタイン

 インディーズ映画界のハズレ無しプロデューサー兼ディレクター、ラリー・フェッセンデンのフランケンシュタインだ。ただし、本作の主人公はフランケンシュタイ博士ではなく、戦争PTSDに悩む元衛生兵ヘンリー(どの戦争か分からない。クソアメリカは戦争しすぎだ)。彼はPTSDからの回復手段として「蘇生術」の研究をしているのだ。ただ”病んで”いるので、その研究は常軌を逸している。ただ死んだ人間を蘇らせるのでは無く、死人をつなぎ合わせて蘇らせることに執着している。何故、それは彼の共同研究者であるポリドリが、その研究を成果を営利利用しようと企んでいるから。戦争や労災でバラバラになった体でも、繋ぎ合わせて蘇生できれば、兵士や労働力に使えるというわけだ。


 物語は実験台にされてしまう青年、アレックスが彼女のルーシーと喧嘩している場面から始まる。アレックスは子供が欲しいと言うルーシーに対し「俺はまだ大学を出たばかりの23だし、ヘッポコだし子供なんて育てられる気がしない」と言う。そんな彼にペンダントをプレゼントして機嫌を取るルーシー。だが、その夜、アレックスはヘンリーとポリドリに殺害されてしまう。

体の部品の記憶

 傷だらけの顔と体で目覚める。何も覚えてない。目の前に居る男がいる。彼はヘンリーと名乗り、自分に「アダム」と名付けると「教育」を始める。トイレのしつけもままならないアダムであったが、言葉を覚え、体の使い方を覚えていく。アダムを悩ませるのは、意味不明のフラッシュバック。ペンダントを手渡す女、病院、手術……。
 異様な研究に反して、平和な日々が続く。そんなある日、共同研究者ポリドリはアダムを町に連れだし、彼が「使い物になるか」をテストする。ポリドリの勝手な行動に激怒するヘンリーだが、彼が「人」として成長していることに喜びを隠せない。


 しかし、行動的になったアダムは、ヘンリーの研究内容を見てしまう。自分が死体の寄せ集めで作られた体であること、時折見るのはその体に残された記憶の断片であること、脳そのものはアレックスであること……衝撃を受けたヘンリーは、夜の町へ飛び出していく。

奇妙なビジュアルと記号要素

 蘇生された人間の内面に焦点を当てる映画は少なくなかったが、本作もより特化している。フラッシュバックはもちろん、「教育」によって、一度途切れた脳内のシナプスが再接続されていく様子等も画面にオーバーライドされれる。一見チープに見えるが、アダムがニューヨーク美術館につれて行かれた際、「サビニの女達の略奪」やキリコの「アリアドネ」、数々の戦争の遺物を見ている最中にそれが行われている事によって、後の夜の町へ飛び出したアダムの行動……人間の本能的な堕落(Depreved)……に繋がっていく。インディーズホラーが見落としがちな、記号要素を忘れずに盛り込むのがラリー・フェッセンデンの腕前ならではだ。さらにこの成長物語は、冒頭にアレックスが言った「俺はまだ子供なんて欲しくない」という言葉にも回帰する。

唐突なユニバーサル風味

 他にも色々な目配せがある。彼が夜の町で出会う魅力的な女性は「シェリー」だし……『フランケンシュタイン』の原作者メアリー・シェリーだ……、アダムは名前もそうだが、原作の”フランケンシュタインの怪物”同様、やたら学習能力が高いインテリである。ただのバカのバケモノとされることが多い”フランケンシュタインの怪物”とは一線を画する。
 しかし、後半、アダムがヘンリーやポリドリに復讐する場面はユニバーサルホラーのような描写になる。唐突な作風の変化に面食らうが、痒いところに手が届くこの感じ。正にラリーフェッセンデンの映画である。 114分と比較的長尺であるが、十分に濃い作品だ。

原題:Depraved 2019年 アメリカ 114分(IMDB

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