『トーク・トゥ・ミー』(Talk To Me):“向こう側”の地獄
モダンホラーの傑作だの、ネット世代(こんな事、今時言うか?)のためのホラーだの、大仰な売り文句で公開前から期待をやたらと煽っている『トーク・トゥ・ミー』。実際観てみると、まごう事なきオカルティックなホラー映画であり、確実に「怖い」映画だけど、モダンか?と言われたら全然モダンではない、むしろ古風ですらあった。
ホームパーティでの一場面。兄コールにナイフを突き立てる弟ダゲット。そしてダゲットは兄を刺したナイフで自らの顔面を貫く。
ミアは、2年前に睡眠薬の過剰摂取で母レアと死別していた。母の死以降、彼女は父マックスとは疎遠になっていた。そんな彼女を支えていたのは親友のジェイドとその弟ライリー。彼らは家族同然の付き合いでミアを元気づけていた。そんな折、3人は”手の剥製”を使った降霊会パーティに参加する。この手を握って「話して(Talk to me)」 と言うと、目の前に霊が出現。さらに「入って」というとその霊が自分の憑依するのだ。ただし、憑依時間は90秒以内。それ以上は危険とされていた。半信半疑で儀式を行うミア。だが本当に霊が現れ、彼女はその体に霊を憑依させる。その様をスマホで撮影するパーティメンバー。これは”憑依芸”を楽しむエンタメなのだ。
ミアの初回憑依は90秒を”ほんの少し”オーバーしたが、成功したように見えた。そして憑依は異様な高揚感を伴った。パーティメンバーはこの高揚感に快楽を感じている、いわば”憑依中毒者”なのである。
ミアは憑依の快楽にはまり、次の会もジェイドとライリーを連れだって降霊パーティに向かう。ライリーも試してみたいと言いだし、彼に“手”を握らせると出現したのは、ミアの母レアであった。ミアはレアと会話を試みるが、突如ライリーの様子が急変。突如自傷をはじめ、目を繰り出そうとしたり、顔面を棚に強打したりの地獄絵図と化す。ライリーから”手”を引き剥がした頃には、危険な時間と言われていた90秒を超えていた。この出来事以降、昏睡状態に陥ったライリーは覚醒のたびに自傷を繰り返し、ミアはレアの幻影に悩まされようになる。そして……。

ベッタベタな降霊術”ミスり”ホラーであり、”手”を”ウィジャボード”に変えても成り立つ話だ。そんな本作をホラー映画として優秀なものにしているのは、憑依と霊の考え方。オカルト好きなら知っているかと思うが、霊は必ずしも”まとも”ではないのだ。むしろ”まとも”でないことのほうが多い。『トーク・トゥ・ミー』の場合、「これから自分に降ろす」相手を目視できる設定で「”妙なやつ”を降ろすことはないだろう」と観客を騙す。加えて『トーク・トゥ・ミー』において、霊を降ろすことそのものに意味が無い。霊媒者が得られる爽快感、憑依された人間を観察することでギャラリーが得られるポルノ的快楽が目的なのだ。
降ろせればなんでもいい。病死していようが、事故死だろうがどんな最後を迎えた霊だろうが知ったこっちゃない。もっというと霊の質が死霊だろうが、悪霊だろうが、色情霊だろうがなんだっていい。降ろしてスッキリできればいい、面白いことをしてくれればいい。90秒を超えなければ問題ないのだ。
「あー、これドラッグのメタファ?90秒超えたらODとかそういう感じ?」
言いたいよね。オレも言いたい。でもまぁ、映画の多くはドラッグと聖書と疫病でそれっぽく説明できてしまうので、今回はやめておこう。ドラッグと聖書と疫病は書けないときに使うネタだ。

降ろす方は「なんだっていい」かつ「無害」と思っており、翻して降ろされる側は全く逆。ここが憑依と霊の考えの優秀とした点だ。本作の展開のキモはミアがライリーを介して、自殺した母レアと対峙する場面だ。ここで「なんだっていい」と思っていたのに、見知った霊を降ろしたことで「なんだってよくない」になる。だが、考えてほしい
そ ん な に う ま い こ と い く か ?
そう、ここから『トーク・トゥ・ミー』の恐怖が始まるのだ。霊はどこから来たのか?現れた目的はなんなのか?90秒間、憑依されている間、意識はどこにいっているのか?憑依ODしたライリーは何故自傷をつづけるのか?
霊がどこから来て、どこに行くのか、それと触れることは何を意味するのか?『トーク・トゥ・ミー』は、具体的には描かない。あくまで直情、直感的な表現とどめている。「なにが起こっているか?」観客に委ねられる。ジャンプスケアもあるし、強烈な暴力描写もある。それだけでも十分恐怖を味わえる映画だ。しかし一番の恐怖は、霊と触れあった結果がもたらす事実。霊がいる”手の向こう側”の世界を垣間見る恐怖。それが『トーク・トゥ・ミー』の恐ろしさなのだ。
この感覚は『ヘルレイザー』や『イベント・ホライゾン』でクライヴ・バーカーが思い描いた地獄、『インシディアス』シリーズの”彼方”を彷彿とさせ、そこはかとない沼のような怖さを感じさせてくれる。

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