ゾンビによる驚異で人類は殆ど存在しなくなった世界。そんな終末世界を生き残ったオッサン2人のアンニュイな旅を描くむさ苦しいロードムービー。

作品データ

The Battery / 2012年 米 / 監督・脚本 ジェレミー・ガードナー / 出演 ジェレミー・ガードナー、アダム・クロンヘイム

レビュー

本作にはゾンビ映画にありがちな、終末感は殆ど無い。"事態はさほど深刻じゃないんじゃね?"と思わせるくらいノンビリした雰囲気。そんな中、野球大好きベンとミッキーがダラダラとゾンビが彷徨く都会を離れ、田舎を車でノンビリ旅をして回っている。
ベンは野性的な生活に馴染みをつけているのだが、ミッキーはそれとは対照的で女の子やベッド、落ち着く家とった生活が恋しくて仕方が無い。次第にストレスをためていくミッキー。ダラダラと魚釣りに興じるベンに向かって「魚なら缶詰があるんのに、お前はほんとお気楽でいいよな!」と八つ当たり。
  
↑だらだらと車で移動しながら、旅をする二人。モジャモジャのベンと小綺麗なミッキー。

彼らは民家を見つけると家捜しをして、缶詰など使える物資を調達している。ベンは食い物や酒を調達してくる一方、ミッキーは女の子の部屋に入り、下着をポケットに忍ばせたりするのだ。(追記:tinkerさんから教えてもらいました。家捜ししていたのは、実は元カノの家なのでした。tinkerさんのレビューも是非読んでください!)とにかくお気楽なベンに対して、ミッキーはもう寂しくて心が綿のようになってしまっているわけですね。だから、思わずナイスバディな女ゾンビを観て、センズリをカマしたりするんですよ。(このセンズリに至る過程が物悲しくて良い)そんな落ち込むミッキーを元気づけようと、ベンは、ミッキーの寝ている部屋にゾンビを閉じ込めておそわせる早朝バズーカならぬ早朝ゾンビなどというアツいことをやってみたるするのだが、ミッキーの落ち込みは変わらない。
  
↑ミッキーがオナっている間、ベンは全裸で滝遊びをしているのであった

  
↑早朝ゾンビ用ゾンビとその後

どん詰まり感漂う二人。しかし、そんなときに拾ったトランシーバー機から女の声が。「わぉ!俺たちの他に生存者?やったー!」しかし、どうにも女の態度がツレれない。ベンは「どうせろくなヤツじゃねぇって!関わらない方がいいって!」とミッキーに警告するが・・・。

結局、彼らは女に遭遇することができるのだが、邪魔者扱いをされた挙げ句にベンの足を銃でバゴン!と打ち抜くと、女はトンズラこいてしまう。しかも、彼らの旅の必需品、車のキーは草むらに放られてしまう。「いってぇよぉ・・、こりゃ動けないよぉ」鍵を拾う間もなく、ベンとミッキーはゾンビに取り囲まれ、車の中に閉じ込められてしまう。

  

  
↑2人以外の人物が出てきたと思ったら、突然話はシビアに

「カバー外してショートさせればエンジンかけられるんじゃね?」「バーカ!映画じゃなぇんだから、そんな事できるわけないだろ?」などと言うやり取りをしているウチはまだよかった。
四六時中ゾンビが呻き声をあげながら車内を覗いているのだ。ヘラヘラとふざけ合っているにも限界がある。窓に目張りをするも、うめき声は止まない。水や食料も限られているから、節約する一方で、尿も溜め込む。とにかく何とかふざけあって乗り切ろうとする二人だが、次第に精神も追い詰められて行く。そして、面倒ごとは普段ベンに任せっきりのだったミッキーが、車の鍵を探すため、意を決してサンルーフから車外へと出て行くのだが・・・。

ネタバレ1
ネタバレ2
ネタバレ3

同性二人で旅したことはあるだろうか?二人(3人ではダメだ)のみというシチュエーションは微妙なパワーバランスの不思議空間を生み出す。タイトルのバッテリーとはよく言ったもので、夫婦や恋人同士とは違った絶妙な補完関係が成り立つのだ。本作はそんな絶妙な関係が描かれている。「どちらかの欠陥を必ずどちらかが埋め、それは声をかけることなく行われる」という、2人旅特有の変なマジックが起こることが多々あるのだが、それが見事に描かれている。前半のアンニュイロードムービーでトコトンそのマジックを描き、後半の厳しい展開へ繋げていく。
  

とにかくミッキーが繊細すぎて可哀相を通り越して苛々させてくれる。ベンはマッチョなフリして、ミッキーの知らぬところで一人泥酔し踊り狂いながら夜を明かしたりする、時折哀愁を漂わせるなかなか可愛いヤツ。描写はベンの方が掘り下げられている(というかパンチが強い)ので、若干ベンのメンタルが強すぎミッキーが線の細さが強調されすぎるが、それは最後のミッキーの一念発起につながり、なかなか見事。
ゴア描写は殆どなく、過激な描写はすべてフレームの外で行われる。ゾンビはメイン要素としても付加要素としても秀逸な小道具であることを改めて認識させられる。傑作。サントラもすばらしい。

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