『Eat Brains Love』:レビュー 〜モブ男とハニービーの血塗れ逃避行〜
Eat Brains Love (2019)

 もはやネタの出尽くし感がある“ゾンビウィルス禍”。劇症恐水病(もう狂犬病とは言わないんだよね?)として“ゾンビ”を再定義した『28日後…』は本当に罪深い映画だ。お陰で、今となっては“ゾンビ”というと、暴れ回り、人に噛みつくことで、仲間を増やし増殖する“何か”になってしまった感がある。それはさておき、本作のゾンビウイルスはSTD(Sexual Transmitted Disease)として描かれる。これまたどこかで観た設定だけど、ここで一つ捻りが加えてある。このゾンビウィルスの感染者は“感情の高ぶり”および“極度の空腹”によって、行動とともに顔面も凶暴化し人を襲うのだ。しかし、感情が平坦になる、あるいは空腹が満たされると元に戻り、見た目は普通の人間と変わらなくなる。ちなみに頭を破壊されない限り、怪我は人を喰うと治ってしまう。セックスでしか感染せず、噛まれても平気。だから大規模なパンデミックは起こらない。よって終末感はゼロ。じゃあ、この映画は何をやろうっていうのか?それは、ゾンビ版のボニー&クライドをやろうとしただけである。

 楽しいランチタイムに突然暴れ出したのは、何の取り柄もないモブ男ジェイク、みんなの人気者アマンダの2人。高校の学食を血の海にした二人は、国の死体捜査課(The Necrotic Control Division略してNCD)に追われる身となる。ジェイクとアマンダは隠れレズビアンゾンビカップルに匿われる。彼女達は、普段はネズミを食べて飢えを凌いでいるが、希に食べても良さそうな人間……要は犯罪者……を捕まえてきては血の祝宴を繰り広げていた。
 しかし、そんな彼らをNCDの能力者が追う。なんということかNCDにはサイコメトリー(追跡者の所有物から残留思念を読み取る超能力者)がいるのだ!あっという間に居場所を突き止められ窮地に追い込まれるジェイク達。
 レズビアンカップルを犠牲にして、なんとか逃げ延びた二人。いつの間にかロマンスが生まれ、ポンコツ凸凹カップル誕生と相成る。そして“世直し旅”と言わんばかりに次々と気に喰わない連中を食い散らかしていくのであった。
 一方、NCDでは感染者を奴隷化しようと企む局長と、その計画に反対するサイコメトリーの内輪揉めが起こっていた……。

 終末感ゼロ、パニック感ゼロ。オフビートだけど血の気は多いというヘンテコなロードトリップムービー。ゴア描写も楽しいし、ジェイクとアマンダの下品なやり取りもテンポがよく、笑える。“微笑ましい”映画だ。とはいえ『ウォーム・ボディーズ』ほどのメランコリックな展開は持ち合わせて折らず、あくまで“微笑ましい”レベルだ。加えて、惜しいのはサイコメトリー。この超能力設定がイマイチ生かされていない。残留思念を見るだけでなく、対象者の視界や意識を乗っ取る能力も加えられ、超能力合戦のような描写もある。こうなってくると、どうしても『スキャナーズ』を期待してしまうのだが、あんな派手な場面はない。能力が拡張されるのも関わらず、あくまで添え物として終わってしまうには勿体ない。
 この他にもNCDの人たちがより抜き戦隊の割に脇がガラ空きでアッサリ全滅したり、そもそもゾンビウィルスの定義自体ゆるゆるだったり、生温い内容ではあるのだが、後半に登場する、ジェイクをゾンビにした女が“手ブラ”で登場する場面にはテンション爆上げ間違いなしだ。

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